「暑いなぁ〜」
京都の夏は、朝晩は気温が下がるが、日中の気温の上昇は激しい。
無論、本日も雲一つない快晴である。
一通り洗濯を終えたは、その場にしゃがみこむ。
「心頭滅却すれば火もまた涼し…なんて嘘だよ…」
つい先程、永倉や原田は、数人の隊士を連れて涼みに出かけた。
人に洗濯頼んでおいて、いい身分なものだ…とは思ったが。
「はぁ〜私も涼みに行きたかったなぁ。このままだと溶けちゃいそう…」
そのまま庭の真ん中で蹲るに、影が差す。
「お疲れ様。暑いのに大変だっただろう?」
その声に、は驚いて顔を上げる。
「山南さん!」
「こんな所にずっと座っていたら、体に良くないよ?」
そう言って山南はに手を差し伸べた。
は、山南の手を取ると、促されるまま木陰へと移動する。
「山南さんは涼みに出かけなかったんですね。」
「この暑い中頑張ってる君を、置いていく訳にはいかないよ。」
そう言って微笑むと、山南は袂から小瓶を取り出した。
中には白く粒の小さい粉が入っているようだ。
「君にいい物を見せてあげようと思ってね。洗濯が終るまで待っていたんだ。」
「私………に!?」
その言葉に、の胸は高鳴る。
私の為に、出かけずに、ずっと待っていてくれたの…?
それだけで、胸がいっぱいになる。
山南は小瓶の栓を抜くと、ゆっくりと瓶を傾けた。
「気分だけだけれど、少しは涼しくなるんじゃないかな。いくよ…」

サラサラと、小さな白い華が宙を舞う。
それは日の光を受けて、キラキラと輝いている。
その光景はまるで……………
「粉雪みたい!綺麗…」
「気に入ってくれたかな?」
「もちろんです!ありがとう山南さん。」
嬉しそうに魅入るの横顔を、山南は満足そうに見つめる。
「この粉は何ですか?」
「さりちる酸と言ってね、薬を調合するのに使うものなんだ。」
「へぇ〜。」
山南との周りだけが、輝いて別世界のように見える。
二人は、しばしその幻想的な世界を楽しんだ。
「またいい物があったら、見せてあげるよ。」
「ホントですか?楽しみにしてます。」
最近山南の発明品が変化してきた、と思うのはの気のせいなのか。
が入隊した頃は、からくり人形等、奇妙奇天烈なものが多かった。
触るたびに爆発し、は山南の発明品に恐怖心を抱いていたこともある。
それが変化しだしたのは、いつの頃だったか……
今では、恐怖心はなく、こうして山南とゆったりとした時間を過ごせるのが、
楽しみでたまらないのだ。
「くん?」
「えっ……!?…あ……はいっ!?」
物思いに耽っていたを、心配そうに覗き込む。
「ごっ…ごめんなさい!ちょっと考え事しちゃって…」
不意を付かれたは、耳まで赤く染め、しどろもどろになってしまった。
そんなを見て、山南はくすっと笑う。
目の前にいる少女は、どうしてこれほどまで可愛いのか。
一緒にいるだけで、今まで渇いていた物が満たされていく充実感。
この時間をまだ終わらせたくない。
互いにそう思った。
「もしよければ、私の部屋でお茶を飲まないかい?」
「いいんですか?…あ、でも山南さん、忙しいんじゃ……」
「大丈夫だよ。今日中にやらなければならないことは、もう済んでるから。」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。」
どちらともなく出された手を繋ぎ、木陰を後にする。
二人が通り過ぎた後には、雪の華がキラキラ反射して、光の道を作り出していた。
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